高橋徹 (総合理工学研究科知能システム科学専攻 寺野研)
アモツ ザハヴィ・アヴィシャグ ザハヴィ(原著)/ 大貫 昌子 (翻訳)
『生物進化とハンディキャップ原理:性選択と利地行動の謎を解く』
白揚社,2001年5月
ハンディキャップ原理とは,ある個体がハンディキャップを負って見せることで,他の個体に自分の優位性を示すものである.例えば,この本ではガゼルとオオカミの話が紹介されている.
あるガゼルはオオカミの存在に気づくとすぐに逃げる一方で,一部のガゼルはすぐには逃げず飛び跳ねてみせる.飛び跳ねることで逃げるのが遅れるのはもちろん,余計なエネルギーを使ってしまう.これは,仲間にオオカミの存在を知らせるための行動かと考えられていた.
しかし,ハンディキャップ原理では,むしろオオカミへシグナルを送っていると指摘している.このシグナルはそのガゼルが優秀な個体でオオカミが狩りをするが難しいという情報を提供している.オオカミはその情報を受けてそのガゼルを狙わずに他のガゼルを狙う.そうすることにより,ガゼルが逃げる手間を省き,オオカミも狩りを失敗する危険性を回避することができる.
つまり,ガゼルとオオカミの間に互いが損を防ぐためのコミュニケーションシステムがあるといえる.これは非常にロバストなシステムと言える.跳躍具合から優秀な個体かが判断できるので,優秀でない個体が跳躍して見せようものならたちまち狙われてしまうため,騙しが効かないのである.
他にも,この本では様々な種類の動物の一見,ハンディキャップを負うという不利な行動を,ハンディキャップ原理を用いて説明している.行動だけではなく,クジャクの羽や鹿の角といった形状に関しても同様に説明している.
最後には人間の形状や,行動に対してもハンディキャップ原理で説明している.例えば,顎髭は闘争の時に掴まれば弱点となりかねないが,あえてそれを生やすというハンディキャップを負うことで個体の優位さを示していると解釈している.
私なりに考えた例としては,ブランド品を持つこともハンディキャップ原理と取ることもできるのではなかろうか.つまり,同じような機能を持つ他の商品があるのに,あえて高いブランド品を選択することで,自分が金銭的に裕福な人間であると示しているということである.もちろん,ブランド品の多くは質も高いので一元的にはハンディキャップ原理で語れないが,そういう側面もあるのではなかろうか.
このようにハンディキャップ原理というシステムは動物のみならず,人間の行動も同じ言葉で説明をすることができる.もちろん,この話と,タンパク質のシステムを人に当てはめるとでは話の粒度がちがう.しかし,システム間を相互に説明できる可能性を示せたのではなかろうか.
最後に,私は一冊目の『したたかな生命』を,システム生物学の入門書としてだけではなく,システム学の入門として薦める.システム学を理解することができれば,製品開発やマーケティングといったシステムで何に気をつければよいかが分かるようになると思う.また,ハンディキャップ原理という興味深いシステムを紹介した二冊目の「生物進化とハンディキャップ原理―性選択と利地行動の謎を解く」を読んでみるとよいかもしれない.

